「店長、あんまり働くと嫁のもらいてなくなるよ~?」
20代からミセスまで、幅広い商品を取り扱うアパレルチェーン店で、私は働いている。
「いいんですよ、結婚なんて。面倒だし。」
笑って返す。
「まったく若いお嬢さんが、こんなとこで1人暮らしとはねぇ~。」
私のお母さんくらいの年のパートさんは、笑いながら荷物を持って売り場に出て行った。
バックヤードには、私1人。
検品する為にバーコードを読ませていく音が、ずっとなっている。
ピッピッピッ・・・

・・・嫁・・・ね

単純作業をしていると、どうしても考え事に頭がいってしまう・・・・・。
胸に着けている名札が、検収機の液晶画面にはっきり映ってる。
店長 逆井加奈子
店長・・・か。
私が元々住んでいた土地は、ここから新幹線で3時間も掛かる。
店長の辞令が来たとき、なんで?と驚いたのがほんと。
遠くに1人で行かなきゃいけない事に、戸惑ってばかりで、嬉しさなんて感じなかった。
いきなりのしかかった責任に、辛くて仕方なかった。
周りは、祝ってくれたけど。
彼も、喜んでくれたけど。
・・・不安じゃないの?
遠くに行っちゃうんだよ?私。
思ったけど。
口に出すことはできなかった。
愚痴とか、言えない。寂しいくたって言えない。
弱い自分なんか、自分でさえ見たくないんだもの。
だから。
何かいってくれるのを期待してた。
でも。
「おめでとう。頑張って来るんだよ。」
笑顔で言われちゃ、うん、当たり前じゃん、て言うしかなかった。
そのま、もう、ま一年が過ぎる。
ビーーーーーッ!
けたたましい音に、はっと我に返る。
パートさんからの呼び出し音に、慌ててレジに急ぐ。
途中で他のパートさんとすれ違って、事情を聞く。
「なんか、店に入ってくるなり商品とりかえろっていってるらしくて・・・。」
「ふぅん・・・。」
ただのお取替えで、何で私を呼ぶ。
なんとなく寂しくなって溜息をつくと、そのままお客の所に歩いていった。