一年前……。

「おはよう知依〜」

『おはようお兄ちゃん。遅刻だよ』

 知依は時計を指差して言った。

「そだねぇ」

『……呆れた』

 知依は、呆れた顔をしながらランドセルを担いだ。

「あれ、もう行くの?」

 僕はゆっくりと朝食を食べる。

『“もう”って……普通だよ。お兄ちゃんが遅いだけ』

 そう言って知依は玄関に行こうとした。

『先行くよ』

「えぇっ……いってらっしゃい……」

 どっちが年上なんだか分からない。
 僕はこの3分後にやっと朝食を食べ終わった。

「さて、行くかぁ〜」

 僕は立ち上がり、リュックを担いだ。


 プルルルル……。
 その時電話が鳴った。

「何だよぉ、いい時なのに……」

 別に何もいい時ではなかったけどそう呟いた。

「もしもしぃー」

 電話をとった。

『宮下知依さんのご家族の方ですか?こちら西署の……』

 知依…………?

「え――?」


 僕は学校を休んで西署まで行った。
 そこには既に両親が居て、二人とも泣いていた。

 知依に会った。
 知依は眠っていた。

「知依……遅刻だよ、起きて……」

 知依は起きない。

 知依……
 もう二度と、この瞳は開かないの?
 知依……!

 僕の目からは涙がとめどなく流れていた。