反則だ。あんな表情は反則だ。


元々かなりの女顔なのに、喜びを必死に隠そうとする姿を見せられたらグッときてしまうじゃないか。


「と、とりあえずこれ着ろ!」


勝手に気まずくなって、勝手に恥ずかしくなった俺は、着ていたパーカーを脱いで千秋の表情を隠すように頭にかぶせた。


千秋は俺のパーカーを手に取ると「でも」となにか言い出しそうだったので、無理やり言葉を被せて続きを遮った。


「一応お前は大事な客だから、風邪でも引かれたら俺が後でマスターに怒られるんだよ。だから着ろ。これは命令!」


言い終えてから、なぜツンデレ口調になってしまったんだろうと後悔した。


もしマミさんに聞かれてたら、一生笑いの種にされていた。ほんとあの人いなくて良かった。


一瞬キョトンとする千秋だが、小さく笑い声を零すとパーカーに袖を通した。


「年上の好意に甘えるのも、年下としての礼儀ですもんね」


俺と千秋の身長差は、目測で約十センチ。