「……もういいです。勝手に落ち込んでますから」


竜司くんは落ち込んでいるけれど、そんな些細なことは気にしない。


「ではお願いします」とマスターも折れて、店の奥に下がるとスピカのリードを手にして戻ってきた。


リードに反応したのか、隅の方で寝ていたスピカがスッと立ち上がる。


「すみませんね。スピカ、千秋くんの言う事を聞くんですよ」


スピカは元気よくワンッと吠えて、尻尾を左右にブンブン振った。


本当に頭の良い犬だ。人の言う事をちゃんと理解しているし、看板犬の鑑だな。


「竜司くんも付いて行ってくださいね」


「へいへいわかりまし……なん、だと?」


「ちょうど休憩時間ですよね。これを機に犬嫌いを克服したらどうですか?」


「ですね。竜司くんが一人でスピカの散歩に連れて行けるように、俺が特訓します!」


スピカがいるのに犬嫌いでは、なにか問題が起こった時に対処できない。