俺はただ唇を重ねるだけのキスでさえ、こんなにも恐がってしまう男女なのだ。


ロクな愛情表現すらも出来ない奴に、竜司くんが呆れるのも無理はない。


これは良い機会だ。


ずるずるとこの関係を引きのばしていった所で、終着点など存在しない。


だったらここで経ち切った方がいいのかもしれない。


今ならまだ気持ち良くスッパリと別れられる。互いに傷も浅いからすぐに立ち直れる。


隅々に張り巡らした予防線。


好きだと告白された時に張った心の防護壁は、無情にもその役目を果たしてくれた。


喜ぶべきか悲しむべきか。いや、ここは悲しむべきなのだろう。


泡沫の夢も呆気ないもんだな。


「夢が見れただけで十分」


自嘲気味に微笑んで、また一つ溜息をつく。