拾って届けてくれるなんて優しい人だなぁっと思っていると、遠くの方でドアが閉まる音がした。


発車する電車。と、優しい青年の顔つきが明らかに強張っているのに気づく。


え、まさか?


「あの、もしかして降りる駅……」


「あー……うん。後三つ先の駅」


男は額に手を当てて、盛大な溜息をついた。


さっきの電車が終電だ。つまり始発までの約五時間、電車一本も通らない。


小雨も降っているし、三つ先の駅じゃ歩いて帰るのも無理だろう。


「すみません。俺がパスモなんか落とすから……」


「いいっていいって、タクシーにでも乗って帰るから」


笑顔でそう言ってくれたが、俺は申し訳ない気持ちで一杯だった。


良いことをしたのに馬鹿を見るなんて、神様なんかいりゃしない。