カランとベルが鳴り、音のする方に顔を向ける。


驚いた顔をする青年は、視線を泳がせて狼狽している。


「仕事が早く終わって」とか「暇だからその」などとモゴモゴしている内に、マスターは店の奥に去っていく。


今店内にいるのは、俺と青年とスピカの二人と一匹。


絡み合う視線。嫌な沈黙。


悪いと一言呟いて、青年は押した扉を引こうとしたが、それはスピカによって妨げられた。


扉の間に割り込んで、おまけに青年のジーンズの裾を噛んで、グイグイと店の中に引っ張っている。


犬嫌いの青年も、まさかの展開に終始硬直。されるがままに、徐々に店内へ入って行く。


マスターもスピカも、余計なことをしやがって。