「いつか貴方に感情が戻ればいいなって思う」

『元々持ち合わせていない』

「初めから感情のない者などいないわ。頭では忘れてしまっただけ……きっと心が覚えてるわよ」



こんなにこの男と話をする事なんてないと思ってた。


二人きりのこの空間が私にとってはとても不思議だった。


私は食器をのせたトレーを持ち部屋を出る為ドアの方へと足を進めた。



『カイン』

「えっ……?」



振り返ると、無表情なままこちらを見ている男と視線が絡み合った。



『……カイン……俺の名だ』

「カイン……素敵な名前ね」



私の緩んだ表情に対して相変わらず無表情なカイン。


だけど名前を知るだけで、不思議とその無表情もカインなりの素直な表現の様に思えた。