部屋に戻ると茂助は高砂の女将と談笑をしていた。その隣では勘吉が仰向けになって寝ており、お伊勢は何かを食べている所だった。                          
遅れて佐衛門が部屋に入って来る。                    
葵は佐衛門と土門の関係が気になって仕方がなかったが、聞き出す切っ掛けを掴めずにいた。                                          





「茂助さん、夜も更けて来たようですし、どうです、この辺でお開きにするというのは!?」                  
「あっ、もうそんな時間になりますか!?…勘吉も寝ちゃったようだし…ではお開きと致しましょう」              

佐衛門の言葉に席を立つ茂助。                      
「紫馬様、そろそろ宿に戻りましょう」                  
「そうですね、もう遅いですし…」                    

茂助は勘吉を背中におぶって部屋を出る。                 
お伊勢は最後の最後まで口に何かを入れていた。                                                              
葵も席を立ち、佐衛門に礼を言う。                    
「どうもご馳走様でした…久しぶりに美味しい物を食べる事が出来ました」              
「いえいえ大したお構いも出来ず…茂助さんから聞いたのですが、紫馬様はさる旗本のお家来だったとか!?」                      
「まあ、そんなところです。ところで廁に立った折り、佐衛門殿が誰かとお話しているのをお見かけしたのですが…」                   
「あ〜っ、土門様の事ですか?」

「やはり土門殿でしたか!?」

「あれっ、お知り合いでしたか?」                    
「それ程面識はありませんが、一度酒の席を一緒にしたことがありましたもので…」