「残念よねぇ、それさえなければお父さんの仕事も手伝えたのにね!?」                 
「簡単に言うけど、一応、医学部出ないといけないんだぜ!しかもうちは貧乏だから私立は無理だから国立じゃないとダメだろうし…」                       
「葵が本気で勉強すれば楽勝だと思うんだけどな!?」

「だから、俺は勉強が嫌いになったんだって!」                                      
香澄の家は葵の家から100メートル程先に行った高台の上にあった。                                                    
「ここで良いわ。ありがとう」

「しかし、いつ見ても『デケェー』家だよな!」              
「今度遊びに来てよ!?」            
「嫌だ!」                   
「何で?」                   
「迷子になるから…」              
「本当に男の子はそういう冗談が好きよね!?」              
「お嫌いですか?」               
「あはははっ、そんな『ヒョットコ』みたいな顔止めてよね!?本当にバカなんだから……」                  
「バカで悪うござんした!」

「その意味の『バカ』じゃないわよ!兎に角、勉強頑張ろう!」

「おう!」                   
「じゃ、お休み」                
「お休み…」                              
香澄は高い鉄門を開け、広い庭を抜けて玄関のドアの所で立ち止まる。そして、小さく、2、3度手を振ってから家の中に消えた。                         
葵はそれを見終えると、自転車に跨がり、坂道を一気に下って行った。