彼岸と此岸の狭間にて

葵が腰を屈(かが)めてショーケースの中を覗いていると店主が鍵を持って現われる。                     
鍵を挿し入れガラス戸を開け商品を取出し丁重に葵に手渡す。              
                  



葵が手にした物は古く薄汚れた『日本刀』であった。

全長約90センチで刀身が約70センチ。白い束(つか)に真っ黒な鞘(さや)。尤(もっと)も束の部分は『白』と云うには程遠く手垢、はたまた『血』なのであろうか、随分と黒ずんでいた。               
葵は初めて触れた日本刀に感慨深げに浸っていると             
「分かっていると思うけど、それ『竹光』だからね」            
と店主が『にこにこ』しながら言う。                    
葵もその事は承知していた。                       
「でもね、『竹光』といえども使い方次第では『凶器』にもなりうるんだから、そこの所は十分注意しないと…」                     
「はい、気を付けます…じゃあ、お金を…」               
「2万円でいいよ」                    
「えっ、本当ですか!?ありがとうございます」             
3万円は葵の現在の全財産だったので1万円の値引きは大助かりであった。              
店主は葵の差し出したお金を受け取る。


「刀袋がないんだけどそのまま持って帰るというのもなぁ…一応『領収書』は出すけど、パトロール中の警官に見つかったら面倒だし…ちょっと貸してごらん」                     
店主は葵からその日本刀を受け取り、店の奥に再び姿を消した。