彼岸と此岸の狭間にて

中は薄暗く手狭で瀬戸物や置物が乱雑に置かれ、壁には意味不明の掛け軸や書画が掛けられてあった。

そして、入り口寄りの壁際に小さなショーケースが…その中には刀剣類がこれまた乱雑に横たわっていた。

見た限りでは人の気配がない。                             

葵は入り口の引き戸を開ける。                      
『ガラガラッ…』                
濁ってはいるが懐かしい響きがした。                                      
「いらっしゃい」                
店の奥から声がする。              
葵は足を一歩踏み入れ「今晩は」と呼び掛ける。              


積み上げられた置物の陰から店主が半身を乗り出す。                     
「おやっ、兄ちゃんじゃないか!?久しぶりだね」             

小柄だが品のある顔立ちをした白髪の老人が現われる。

「一週間ぶりです」               
葵は右手で罰が悪そうに頭を掻く。                    
「どうしようかと迷っちゃって…まだありますか?」            
「あはははっ、あんな物に興味を持つのは兄ちゃんくらいだから…」                 

葵がこの店を初めて訪れたのは今年の2月、不知火神社で行なわれた節分の催し物の帰り道に、友人達と冷やかしの軽い気持ちからであった。それから何度か店を覗くようになった。ある物に魅せられて…                   
「で、決めたの?」               
「はい、買うことにしました」

「そう。ご両親には?」             
「内緒です」                  
「そう…まあ、大丈夫かな!?」                   
店主は奧の方に戻って行った。