〔1〕
「ただ今戻ったぞ!」
「お帰りなさいませ、兄上」「お帰りなさいませ、お父上」
外で待つ葵の耳に色々な声が飛び込んで来る。
「今日は客人がおる……さあ、葵殿、入られよ」
躊躇していたが、山中に手を引っ張られ已むなく足を踏み入れる。
薄暗く、薬の匂いが強烈に鼻を襲う。
部屋は二間あるらしく手前の部屋に3人の幼子と針仕事をしている若い女性の姿が見えた。
「まあ、これはこれは…狭い所ですけどよくお出でになられました」
妹の『雪之』であろう、正座して深々と頭を下げる。奥の部屋の襖が開く。40代の顔色の悪い女性が姿を表わす。
「紫馬葵と申します。夜分に申し訳ありません」
「主人からお噂はかねがね聞いております。いつも懇意にして頂き、ありがとう存じます」
その女性も三つ指を突いて挨拶を交わす。
「奥様は体が悪いと聞いていますので無理をなさらずどうぞお休みになられて下さい」
「有り難いお言葉痛み入ります」
「うん、幸恵(さちえ)、葵殿の言葉に甘えて休め!雪之もいる事だし…」
「はい。何もない所ではございますが、どうぞごゆっくりと…では、お言葉に甘えさせて頂きます」
その女性は再び奥の部屋へと戻って行った。
雪之が出してくれた水桶で足を雪(そそ)ぐ。
最初は薄暗くて雪之の顔が分からなかった、が…
「ただ今戻ったぞ!」
「お帰りなさいませ、兄上」「お帰りなさいませ、お父上」
外で待つ葵の耳に色々な声が飛び込んで来る。
「今日は客人がおる……さあ、葵殿、入られよ」
躊躇していたが、山中に手を引っ張られ已むなく足を踏み入れる。
薄暗く、薬の匂いが強烈に鼻を襲う。
部屋は二間あるらしく手前の部屋に3人の幼子と針仕事をしている若い女性の姿が見えた。
「まあ、これはこれは…狭い所ですけどよくお出でになられました」
妹の『雪之』であろう、正座して深々と頭を下げる。奥の部屋の襖が開く。40代の顔色の悪い女性が姿を表わす。
「紫馬葵と申します。夜分に申し訳ありません」
「主人からお噂はかねがね聞いております。いつも懇意にして頂き、ありがとう存じます」
その女性も三つ指を突いて挨拶を交わす。
「奥様は体が悪いと聞いていますので無理をなさらずどうぞお休みになられて下さい」
「有り難いお言葉痛み入ります」
「うん、幸恵(さちえ)、葵殿の言葉に甘えて休め!雪之もいる事だし…」
「はい。何もない所ではございますが、どうぞごゆっくりと…では、お言葉に甘えさせて頂きます」
その女性は再び奥の部屋へと戻って行った。
雪之が出してくれた水桶で足を雪(そそ)ぐ。
最初は薄暗くて雪之の顔が分からなかった、が…