彼岸と此岸の狭間にて

〔2〕                     
段々と人通りも人家も少なくなって来る。


道の所々に街灯はあるものの、灯りとしては不十分だった。               
畑作用の小川が車道の側を流れ、そこを棲み家としている蛙達の鳴き声は夏が近い事を知らせる。                


(あれっ、靄[もや]が出て来たかな!?)                
町の外れに行くに連れて白い雲のような物が流れてくるようになってきた。     


目指す場所は不知火神社と駅へ続く道の分岐点にある。                      
この辺りは小学生の頃、虫取りや神社の境内で遊ぶためしばしば訪れていたが、最近では滅多に足を運ぶ事はなかった。                              

自転車のライトと不十分な街灯を頼りにして突き進むと、もやっとした闇の中に『ボンヤリ』と明かりが浮かび上がってくる。                    
                                                                 
やがて明かりの源が判然とする。然程(さほど)大きくはない平屋からのものであった。そして周りに家は一軒も見当たらない。                
(あれっ、ここだったかな!?周りに家があったような気がするけど…)



葵はその家の側面に自転車を止める。

家は大分(だいぶ)くたびれ掛けた趣で、砂利が敷かれた庭は印象的でさえあった。              
明かりが洩れている所までやって来る。と、入り口の木製の引き戸のガラスの上に何やら文字が書かれてある。                               
『骨董  長谷部』               
古い字体である。                
(骨董長谷部!ここで間違いない!勘違いか…!?)       


葵は入り口から中を覗き込む。