山中はその攻撃を後ろに大きく跳んでかわす。               
(ふぅ〜っ……思ったより身軽だな、山中さん)              
今度は山中が突きを見せる。しかし、榊はこれを余裕で避ける。                               
また中央に戻って暫らく対峙する二人。                     


榊は上段の構えから中段の構えに戻したかと思ったその瞬間、多数の打ち込みを矢継ぎ早に仕掛ける。              
上、上、下、下、胴…              
防戦一方の山中。                
(あっ、あっ、あっ……)            
その動きに合わせて体を動かす葵。                                
じりじりと道場の隅に追いやられる山中。                 
(下がっちゃダメだって。反撃しないと…)                       
しかし勝負事での体力差は如何とも仕難く、後退を始めていた山中の足は次第によろめき始めていた。              
(あ〜っ、足がもつれ出しちゃってる。ここで転んだりしたら…)                     
力任せに木刀を振る榊。飛び散る汗。鬼のような形相。                  
山中は決定打は受けてないものの、体のあちこちから血が滲み出していた。              

尚も後退し続ける山中。そして壁を避けようとして体を反転させようとした時、悲劇は起こった。                
左足を自分の右足で踏ん付けてしまい、体を斜めにしながら尻から稽古場の床板に転んだのである。               
(だから言ったのに!!)            
それを見た榊はこの機を逃してなるものかと上段から渾身の力で山中目がけて木刀を振り下ろす。                                        
『ガツーーン!!』               
骨を砕くような音がした。