『ドカドカ…』                 
上座の入り口付近が騒がしい。                      
下座にいる葵が身を乗り出して見ていると、弟子二人に体を抱えられて髪の毛も髭も『真っ白』な老人が表れる。                     
(あれが館主の『尾上十三郎』か!?随分と年を取っている!あれじゃ、無理だよな)                     
尾上が上座に座るのを待ち、それから榊も山中も尾上に一礼をする。                     

仕切り直しでもう一度礼をする両者。                    
水を打ったような静けさ。            
緊張感が走る。                 
息を呑む葵。固唾を呑んで見守る門下生。                                                                              
「始め〜っ!!」                
その掛け声が緊張感を突き破る。                                                         
両者とも中段の構え。だが奇声を発するわけでもなく静かに向き合っている。               
(始まっちゃったよ…)             
円を描くように静かに足を動かす両者。間合いを測っているのか、手の方は全然動かない。                             
榊が左に回れば山中も左に。山中が右に回れば榊が右へ。                                  
やがて榊が中段の構えを上段の構えに変える。               
(あの身長差であの構えは山中さんに圧倒的に不利な気がするが…)                             
最初の攻撃が始まる。              
榊が素早く山中の方に寄ったかと思うや否や、山中の脳天目がけて木刀を一気に振り下ろす。                  
(あぶない!!)