どうしようかと思案に暮れていると

「生前父が大変お世話になり…本日は遠いところわざわざありがとうございました」

という声とともに母親と同年代と思われる男性が姿を見せる。                    
葵がその男性と弔問客のやり取りを見ていると、その男性が葵に気付き、手招きをする。                    

「もしかして君は…父が話していたあの少年かな!?『日本刀』に魅せられた…」                       
「はい、そうです」               
「やっぱりそうか!今日は線香を上げに来てくれたんだ!?」                 
「いえ…」                    
葵は夢の話を除いて今までの経緯を話す。                 
「そうかあ。でも、偶然だとしても父が呼んだのかもしれないね。折角来てくれたんだから中に入って線香を上げていってよ」               
「でも、僕、香典を…」             
「ははは、そんなの気にすることないって…父も喜ぶと思うから…ささっ!」                       
葵は促されるままその息子と思しき人物の後に付いて家の中に入る。                                                                                                     
店の中には何度も入ったことはあるが、奥の部屋は初めて見る。                   
4畳半と6畳の畳み敷きの二間で奥の4畳半の部屋に棺が置かれてあった。                   
「顔を見てやってよ」              
棺の小さい扉が開かれてありそこから顔を見る事ができた。                     
安らかな顔をしている。             
「苦しまなかったから穏やかな顔をしているでしょう!?」                     
葵は棺の前に正座し暫らくの間目を閉じ手を合わせていた。