「ご飯は?」                  
流しで洗い物をしている母親が尋ねてくる。                
「時間がないから要らない…じゃあ、行って来ます」            
「あっ、葵!」                 
呼ばれて足を止める。                  
「何?」                    
「進路の希望書、ちゃんと出したんでしょうね?」             
(しまった!まだ出してなかった)


「…一昨日…」                  
「母さんも父さんもあなたの人生だからそんなに口煩くは言いたくないけど、今、ちゃんとしておかないと後で泣きをみるのは『あなた自身』なんだから」              
「分かってるよ。じゃあ、行って来ます」                                                                 
外に出る。            
(爽やかな良い天気!…でも、あの夢は何だったんだろう?確か…骨董屋のおじさん、『何かあったら来なさい』って言ってたよな。よし、今日帰ってから行ってみよう)                                   


葵が通う学校は自宅から徒歩で15分くらいの所にある全校生徒400人足らずの男女共学の都立校。半数程度が進学で残りは就職という極めて『普通』の高校であった。                                                                                     
1時限目が始まる寸前に教室に入る。                               
「葵!」                    
窓際の一番後ろの席に座っている奴が手を振っている。