〔1〕                     
「お兄ちゃん、お兄ちゃんってば…」                   
(誰だ!?眠りたる者を揺り起こす者は?)                
体を起こす。            
「あれっ、お前、美優じゃん!?何故ここに?」              
「バカ兄貴!何寝呆けてるのよ?学校遅刻するよ!私、もう行くから…」                    
(夢か!?本当に本当に夢だったんだ!よかったあ〜っ。でも、不思議な夢だった…刀の重みが手に残っているような気がする)                     
部屋を出て行こうとする美優を呼び止める。                
「美優、お前さあ、夢とか見る?」                    
「えっ、夢?そりゃあ、たまには見るよ」                 
「どんなの?」              
「内緒!」             
「じゃあ、もう1つ。俺の右目は?」                   
屈みこんで葵の右目を覗く。

「普段通りに『赤い』よ」            
「そうかあ…赤いか!?」            
「変なお兄ちゃん!もう行くよ」                     
美優の後ろ姿を見送ってから立ち上がり机の上の携帯を見る。                    
(6月17日[金]午前7時43分かあ、って、やべえ、本当に遅刻する!)             
制服に着替え、カバンを持って急いで部屋を出る。                                                                         
「おはよう」                  
台所にいる母親に挨拶して洗面所に向かう。                                                                            
顔を洗い、歯を磨き、コンタクトレンズを装着させて再び台所に顔を出す。                
美優と父親の姿は既になかった。