「お前さん、買っておくれよ、ねえ、良いだろう!?」

「この前買ったばかりではないか!?」

「あれはもう飽きちまったんだよ〜っ!」

「考えておく。酔いが回ったようだ、少し、夜風に当たってくる!」

「そう言ってまた逃げる」                        
男は新橋にある小料理屋から表に出る。                  
(金が尽き始めてきた。また、堀りに行かないとダメか!?)                            
夜風に当たるため、小川の辺(ほとり)に歩き始めた時、どこからともなく表れた男と肩がぶつかる。

「痛えなあ〜っ、どこを見て歩いてやがる!」               
酔いの所為(せい)でもあるのか気が大きくなっていた。

「これは失礼した!」              
「そんなもの詫びになるか!?頭を下げろ、頭を!!いや、土下座しろ、土下座だ!!」                      
ぶつかった浪人風の男がそれを無視して立ち去ろうとする。

これを見て男が激高する。            
「貴様、俺の言った事が聞こえないのか!?」               
尚も無視して歩き続ける男。それを追う男。                
「貴様、ただでは済まさぬ!!」                     
男は刀を抜くと裸足になって走り出していた。                                                   





男を追いかけて、気付けば『宝承寺』近くの野原に来ていた。                      
月が綺麗な夜で空には雲ひとつない。月明かりで男の顔が見える。                       
「あれっ、お前の顔はどこかで…」                    
浪人風の男が刀を抜く。                 
「あははははっ、『竹光』じゃないか、『竹光』!?……??……紫馬か!?紫馬葵だな!!」                       
無言で『竹光』を持つ姿を見て男は凍り付いたようにただただ立っているだけだった。