山中は葵の右目を上下に開いてあらゆる角度から調べる。


「う〜ん、見た所、特に異常は見つかりませぬが…」            
「目の色はどうですか?」            
「目の色…で御座るか?…澄んだ綺麗な『黒い瞳』で御座る…」

「本当ですか?」                
山中は怪訝(けげん)そうな顔をしながらも頷く。             
(どういう事なんだろう?精神だけが時代を越えたのか?……でも、体自身は昔から付き合って来た物のようだけど…でも、目の色が普通に『黒』なら怪しまれずに済むから一応安心だ)                                

葵達は長屋の路地を抜けて人通りが多く、色々な店が立ち並ぶ大通りに出た。             
あちこちから活気に満ち溢れた声や威勢のいい掛け声が聞こえて来る。                                  
「ところで、今日の仕事って何ですか?」                 
(これが肝心だよ)

「小遣い稼ぎに『道場破り』を少しばかり…」                       
履き馴れない草履に気を取られて山中の話を聞いてなかった。

「すみません、何ですか?」

山中は葵の無礼な態度に怒りもせず、穏やかにもう一度ゆっくり話す。                    
「道場破りですよ、紫馬殿!」

「なあ〜んだ、道場破りですか?はははっ………え〜っ!!道場破りってあの道場……」                    
「しぃーーっ!声が高いで御座る」                    
山中に嗜(たしな)められ慌てふためいていると、誰かが自分の腰の辺りを頻りに叩く。               

(誰だよ!?もお〜っ!!)