彼岸と此岸の狭間にて

〔3〕         

東京千駄ケ谷 【国立脳科学研究所】

『第三ラボ 生体脳反応研究室』           


「紫馬先生!葵君の脳が『ノンレム状態』に入りました」

「うん、分かった」              
助手の青柳が紫馬に葵の脳の現在の状況を報告をする。

紫馬公彦は脳科学研究については世界的権威で、この研究所の所長でもある。


「何か夢でも見ているのでしょうか?」                  
「多分、見ていると思うよ。ただ、それを表現できないだけで…」

「この脳だけの状態は生きていると言って良いんですかね!?」               
「うん、それは難しいね。『生きる』という事をどう解釈するかに関わってくると思うよ」                   
「どういう事ですか?」             
「例えば、肉体と精神が合一(ごういつ:ひとつになる事)している事こそが『生きている』と解釈すれば葵の場合は死んでいる事になるけど、意識の中にこそ『生きている実体』を見出だせると考えれば、葵は生きている事になる」

「言っている意味がよく分からないんですけど、特に後の方が!?」                 
「簡単に言うと、色々な物、総(すべ)てが機能して初めて生きていると言うのか、1つでも機能していれば良いという考え方の違いかな!?」                    
「もう一声!」                 
「生きているという事を何で実感するかの違い。感覚か意識か?」

「という事は葵君は今、意識だけという事ですか?」                   
「そう。意識を認識することは出来るが、『生きている』という事を認識しているのかどうかは分からないけど…」            
「となると葵君の今の状態は?」

「生と死の狭間、かな!?」