「兄上!」


両手には日本刀が!!
それは全長80センチ程で、束の部分が白色と紺色の絹糸で格子模様に編み込まれている。


「刀をお忘れですよ!如何に浪人の身とはいえ『武士の魂』をお忘れるとは…」

(そうか、この時代は帯刀が許されているんだった。本物の刀か!?)                  
妹から刀を受け取る。              
『ズシッ!』                  
(重っ!何じゃこりゃ〜っ!?こんなに重いとは…『竹光』なんかとは雲泥の差だ!!)                   
「しっかりして下さいよ、本当にもう!」                 
怒りの言葉を残して家の中に入って行く。                 
「はははっ、女子(おなご)は恐いですな。綾野(あやの)殿も例外ではないという事ですか!?」                      
(ふ〜ん、綾野というのか!?どことなく性格も美優に似てる…)                 

その刀を山中を真似て腰の左部分の細い帯に挿し込む。            
(早くこの世界に慣れるのも大事だよな!それと『君子危うきに近寄らず』の精神で…)                 

陽射しは強いが、思った程暑くはない。時折吹く風さえも『カラッ』としている。                 
(こっちに来れたということは向うの世界に戻れる可能性があるという事だからな!!……コンタクトレンズは喪失しているようだ)                
「山中さん、じゃなかった、山中殿!?」                 
「うん、何で御座る?」             
「俺、じゃなく…私の右目を見て欲しいのですが?」            
「ゴミでも入りましたか?…どれどれ!?紫馬殿は背が高い故、もちょっと屈んでいただかないと…」              

葵は長屋の細い凸凹した土の道の真ん中で腰を屈める。