彼岸と此岸の狭間にて

腕を組んで考える。               
(夢…!?夢にしては現実感があり過ぎるし…ならば、矢張り、『タイムスリップ』!?)   


「兄上!!何をなさっているのですか!?」

「お、おう……」


立ち上がる時に目眩(めまい)に襲われる。                
(夢なら、覚めない夢はないし…何らかの事情で江戸時代に翔ばされたなら…) 

「兄上、ってば!!」

「分かった、分かった、そう何度も言うな!」                        
履き馴れない草履に足を入れ障子張りの安普請(やすぶしん)の木戸を恐る恐る開ける。                                      
(うっ…眩しい〜っ!)             
夏の陽射(ひざ)し。太陽の位置からするとお昼前辺りのようだ!?                  

「おっ、紫馬殿、やっとお目覚めかな!?」                
(あれっ、聞き覚えのある声!?)              

声の方を見ると、そこには小柄で華奢(きゃしゃ)な30代の男が腕組みをして立っていた。                  
(ちっちぇ〜っ、ほそぇ〜っ!!)                    
葵の身長が180センチを越えるのに対し、江戸時代の男子の平均身長が150センチと言われているから、葵が『小さい』と感じたのも分かるだろう。                      
「では、参りましょうか?」

「参るって、どこへ?」             
「先日、約束したでは御座らぬか、今日、一緒に仕事をすると!?」                
(え〜っ、だって俺、今、300年以上前の時代からやって来たばかりだよ〜っ)            
「………」                      
下を向いて悩む葵。              
(訳の分からぬまま付いて行って良いものか!?)             
「如何なされた?」

(しかしなあ、ここで拒否するのも……兎に角、事実を受け入れない事には話が進まないだろうし…)


意を決した時、家の中から妹が出て来る。