「ここに一両あります。警護の仕事で『竹光』はまずいですから、買うなり質屋から取り戻すなりして下さい」                      
「しかし、それでは…」             
「まあ、早めの『結納金』だと思ってもらえれば…」            
「かたじけない。実は、『竹光』の事が気掛かりで、斬り合いになったらどうしようか、とそればかり考えておりました」                 
「それならば是非とも…」            
「申し訳ない。有り難く頂戴つかまつる…明日にでも取り戻して参ります」               
「それがいいでしょう!どうです、これから鰻でも食いに行きませんか?」                
「おーっ、それは良い。最近、賄(まかな)い料理には飽きていたところで御座る」                      
山中は葵から貰った一両を大事そうに懐に仕舞い入れる。                                                                                                                      



「長谷部殿、ただ今、戻って参りました。土産に鰻が……」                                   
戸を開け山中が目にした光景は長谷部が手紙を前にして膝を崩して泣いているところだった。                  
「如何なされた?」             
「……妻…が…死にました」

「何と!?それは、いつの事で御座る?」               
「一ヵ月前に…」                
「原因は?」                  
「流行り病い……」            
「それは御心中(しんちゅう)お察し致す」                
「今月末までに、20両を返さねば私の母と子は家を立ち退かなければなりませぬ!」            
「それは一大事で御座る!」
            
「このままでは私の母と子は路頭に迷ってしまいます」