〔1〕         

「でも、どうしてここに?」

「山中殿が全然家に帰って来ないと雪乃殿始めみな心配していたものですから…」                  
「お〜っ、そうでしたか!?三日に一度は休めるのですが、帰るのがつい面倒臭くなって…今度の休みには必ず帰るとお伝え下され」            
「分かりました。ところで、こちらの方は?」               
「そうでした。紹介がまだでしたな。こちらは『長谷部一徳』殿。長崎出身で御座る。

長谷部殿!こちらが先日話した『紫馬葵』殿!」

「『紫馬葵』と申します」            
「『長谷部一徳』と申します。先程の非礼重ねて…」            
「もう良いですって…律儀な人ですね」                  
「そこが長谷部殿の良いところ。葵殿も見習われよ!がははははっ!」                 
「はい、はい、分かりました」

「山中殿、それは『ちと』言い過ぎでは…!?」                
「やはり極悪人は見習わないと…」                    
「参った!!これはやり返されました。あはははっ…」                       

葵と長谷部はお互いの素性を明かし、すぐにうち解け合った。                                                                                                        
山中と伴に柳沢邸を出る。            
「長谷部殿も良い人ですね!?」

「であろう!?拙者、浪人の身といえ、良き友人に恵まれて幸せで御座る!」             
「ところで刀の方は?」             
「面目ない。まだあのままで…」                     
葵は懐に手を入れ紙包みを取り出す。