〔1〕                     
(う〜っ、ダメだ!全然眠れない)                    
時計は午前4時を過ぎていた。                      
香澄の手の温もりが、髪の薫りが、そして目蓋の裏には香澄の笑顔も残っている。                 
何度もベッドの上で寝返りを繰り返した。                 
メルアドも交換し、携帯で写真を何枚も撮った。初めて、待ち受けに女性の画像も設定した。                  
(幸せなのか、幸せなのだろう、自己満足という意味では…)                    
香澄の気持ちが知りたくなった。知らなければもはや前には進めない気がする。だが、この自己満足の時間を直ぐには崩したくはないという気持ちもある。                


やがて理性は本能の前に道を譲り、眠りの神に全面降伏する。                                                                                                       





「葵〜っ!葵〜っ!…しょうがないわね!」                             
階下から階段を上ってドアをノックする。                 


『ドンドン、ドンドン…』                                    
(んっ!?…なんだあ…!?)                      
「葵、起きたあ!?電話よ、電話!」                   
(電話〜っ!?携帯じゃなく、家庭用の電話に…!?)                       

頭が半分死んでいる。体を起こして死んでいる半分の頭に生命を与える。