彼岸と此岸の狭間にて

「うん、変わりないよ」             
「そうか、なら良い。病気じゃないけど調子が悪かったらすぐ病院に行くんだぞ!」                       
「分かってるよ」                
それだけ言うと父親は台所へと戻って行った。                 
父親は無口な方で勉強の事や進路の事について口煩(うるさ)くなかったのが嬉しかった。これと反対なのが母親である(まあ、どこの家庭でも似たり寄ったりだとは思うが…)            



それで葵の右目についてだが、これは生まれつきのものだ。


不憫に思った両親は何でも試みた。

小児科、眼科、耳鼻科、脳外科、脳神経外科を訪れ、CTスキャン、MRIなど現状の医学レベルで可能な限りの検査をしてもらった。それから病院を何軒も変え、良い医者、病院があると聞けばどこにでも行った。

が、結局、原因は分からなかった。               
次に、霊媒師や祈祷師にも頼った。だが、これも効果がなかった。



そうして17年が過ぎた。            
未だに何ら発症していない。だから、最近では葵を含め家族達は『病気ではないのだろう』と結論づけるようになっていた。


この事を知っているのは家族と親戚、少数の幼なじみだけである。                 
ただ裸眼のままでは周りの者に気味悪がられるだろうと、幼少の頃から『黒色』のカラーコンタクトレンズをはめてきた。               
                                                    


台所で何やら話し声が聞こえる。母親が起きてきたらしい。

これから自分の進路について父親との話し合いが行われる事を感じ取った葵は『とばっちりを受けては大変!!』と速攻で服を脱いで浴室に逃げ込んだ。