(何だろう!?)                
「ところでお泊りの方は?」

「一泊お願いします」              
「お〜い、お客さんだよ!!」                      
帳場の奥から10代と思われる赤いホッペをした女中が表れ、二階の右端の部屋に案内される。             
「どうぞごゆるりと…」                         
部屋に入り障子戸を全部締め切って茂助の袋を開ける。                     
中には、手紙とお金、そして通行手形が入っていた。            
(助かった!通行手形がなければ『小仏関(東京都八王子市)』を通れないところだった)                   
それから手紙を読む。                       
『昨日の夜に早飛脚により江戸の店から手紙が届きました。

私の主人の庄三郎が五日前に浪人達に襲われ、危篤状態との事です。

もはや居ても立ってもおられず、申し訳ないのですが、先に出立いたします。

私と勘吉の足ですから、紫馬様がお急ぎになられれば私達に追い付くやも知れません。取り急ぎ失礼いたします』                         
『ミミズ』がのたうち回ったような字だから完璧に読めたわけではないが、内容は大体分かった。             

(茂助殿の主人が浪人達に襲われた!?…土門の影がちらつくが…)                          

葵は夜明けとともに宿を出る事を決め、早めの風呂、早めの食事を取って、すぐに床に就いた。                                                                                         



次の日の朝は生憎(あいにく)の雨だった。                
宿から蓑笠(みのがさ)を安く購入し、わらじも五足程調達した。                  
(さて、どこで追い付けるか!?)