〔3〕
机の上の時計を見る。間もなく午前零時になろうとしていた。
近所の犬の遠吠えが時折聞こえる程度で辺りは静かだった。家の中もさっきまで聞こえていた物音がしなくなっていた。みな寝てしまったようだ。
(もう大丈夫だろう!)
葵は机の椅子から立ち上がるとベッドの下から日本刀を取り出し、物音を立てないよう新聞紙を取り除いていく。
待ち焦がれていた物が目の前にある。
一目惚れだった。いや、そうではない。一目見た時何とも言えぬ悲しく、切ない物が胸の奥から突き上げて来た。右目の奥も痛んだ。
ガラスのテーブルを片付け部屋の真ん中に正座してゆっくりと束の部分を右手で握る。それから目の前に垂直に立て全体を眺め、そのバランスを感じ取る。竹光の為だろう、それ程重くはない。
(全身に力が漲[みなぎ]る感じだ!)
それから刀を左腰の所に持って来て鞘から刀を抜く。
表れたのは黄緑色のまさしく『竹』であった。300年以上も前の物であるからくすんでいた。よく見ると所々に黒い染みがあり、切っ先の部分は特にひどかった。
(何だろう?血なんだろうか!?)
葵はそれをどうしても振ってみたい衝動に駆られる。
すくっと立ち上がると深呼吸をして気持ちを落ち着けてから右斜めに一気に振り下ろす。
『ブン!』
空気を切り裂く音が心地良い。続けて左方向から腰の辺りの高さを真横に右方向に切り抜く。
『ブン!』
その音は葵を陶酔させるには十分なものだった。
机の上の時計を見る。間もなく午前零時になろうとしていた。
近所の犬の遠吠えが時折聞こえる程度で辺りは静かだった。家の中もさっきまで聞こえていた物音がしなくなっていた。みな寝てしまったようだ。
(もう大丈夫だろう!)
葵は机の椅子から立ち上がるとベッドの下から日本刀を取り出し、物音を立てないよう新聞紙を取り除いていく。
待ち焦がれていた物が目の前にある。
一目惚れだった。いや、そうではない。一目見た時何とも言えぬ悲しく、切ない物が胸の奥から突き上げて来た。右目の奥も痛んだ。
ガラスのテーブルを片付け部屋の真ん中に正座してゆっくりと束の部分を右手で握る。それから目の前に垂直に立て全体を眺め、そのバランスを感じ取る。竹光の為だろう、それ程重くはない。
(全身に力が漲[みなぎ]る感じだ!)
それから刀を左腰の所に持って来て鞘から刀を抜く。
表れたのは黄緑色のまさしく『竹』であった。300年以上も前の物であるからくすんでいた。よく見ると所々に黒い染みがあり、切っ先の部分は特にひどかった。
(何だろう?血なんだろうか!?)
葵はそれをどうしても振ってみたい衝動に駆られる。
すくっと立ち上がると深呼吸をして気持ちを落ち着けてから右斜めに一気に振り下ろす。
『ブン!』
空気を切り裂く音が心地良い。続けて左方向から腰の辺りの高さを真横に右方向に切り抜く。
『ブン!』
その音は葵を陶酔させるには十分なものだった。
