──翌朝

「世話になった」

「良い旅路を」

 宿を発つ旅人に、カナンはいつもの言葉をかける。

 いつもなら元気に笑って言えるのに、今は旅立つ彼を嫌な気分にさせないようにと必死で顔を作っている。

 カナンは軽く手を上げて遠ざかるシレアを見つめて、何か得体の知れない不安が胸を過ぎるのを感じた。

 でもきっと、これは私の我が儘な感情が生み出したものなんだと言い聞かせ、シレアの旅の無事を祈った。

 シレアは街の外につながる門を一瞥し、空を仰いでソーズワースの首をさする。

 胸の奥を締め付けてくるこの重たい気配に、他の人々は気づいているだろうか。

 それとも、気づいているのはシレアだけなのか。