荒くれ者となった男は腕に自信があったけれど、横暴を制止するべく立ち向かったシレアにはまるで歯が立たず、彼の剣の前に敵わないと悟って悔しさにくずおれた。

 シレアは男に剣を向け、彼の行いを一つ一つ、ゆっくりと説明した。

 淡々とつむがれる愚行の数々に男は、己がいかに愚かだったのかを痛烈に思い知らされた。

 自分の行いを改めた男はそれからシレアと打ち解け、立派に成人を迎えて旅に出た。

 このときシレアはようやく、心が晴れたような気分だった。

 男は今でも時折、顔を見せに集落に帰ってくる。

「己の心に従うのだ。躊躇うな」

 我らの心と自然はおぬしと共にある。

「心だけで助かる。息子の晩飯をくすねるのはやめてもらいたいからな」

「そんな昔の事を蒸し返すでないわい!」

「思い出は、戻ってくる力になる」

 護りたいと思える記憶は有り難いとつぶやき、ディナスを見下ろした。

 こうして見ると、初めに目にしたときよりもずいぶんと歳を取った。

 それほどの歳月を過ごしたということか。