──朝を迎えた西の辺境は、一日の始まりに小鳥が空を忙しなく行き交っている。

[これは驚きだ!]

 ヴァラオムは眼前の光景に感嘆の声を上げた。

[よもや、ケルピーまでも従えていたとは!]

 集落の近くにある小川に来てみれば、シレアが白馬を愛でているではないか。

「友だよ」

 リンドブルム山脈から流れる冷たい小川に足を浸している白馬の首をさすって答える。

 本来のケルピーは下半身が魚の尾になっている水棲モンスターで、人を食らうために馬や人間に化けて水に引きずり込む危険な存在だ。

 しかし、飼い慣らす事が出来たなら強い味方となるだろう。

[そなたはいつもそうだな。我と出会ったときも、真っ直ぐに見つめてきた]

 少しも揺らぐこと無く、ただ真っ直ぐな視線に我の方が戸惑ったものだ。

「この世界を知りたかったのだと思う」

 己のなんたるかを知り得ないもどかしさと歯がゆさは、世界を知る事で補おえるはずもなく、それでもなお知ろうと足を進める。

 そうして己を知ったいま、課せられたものの重みに戸惑いは隠せない。