エナスケア大陸──その西に連なるリンドブルム山脈にほど近い集落、木造や煉瓦造りの建物に統一性は無いが、全体的に見て青年が少ないようにも思われる。

 巨大な翼竜(リンドブルム)がここで息絶え、神がその亡骸を岩に変えたという神話からリンドブルム山脈と名付けられた。

「長老!」

 五十代ほどの男が声を荒げ、集落のなかではひときわ大きな建物に飛び込んだ。

「なんじゃ、昼過ぎから騒々しい」

 七十代と思しき白髪の老人は、駆け込んできた男に顔をしかめる。

「ま、魔法円が輝いています」

「なぬ?」

 老人は杖を持ち、慌てて集落の端に足を運ぶ。

 シレアが旅立ったあと、人があまり立ち入らない場所に魔法円が描かれていると村人から報告を受けた。

 勝手にこんなものをこさえるのはシレアしかいない。

 あやつはいつも、しれっとなにかをやらかしおる。

 折角だから置いておけと放置していたものがよもや動き出すとは。