革の鎧を身につけ、長い赤毛を後ろで一つに束ねている。

 暗い紫(ダークスレートブルー)の瞳は神秘性を漂わせ、眼前に現れたシレアを冷たく見下ろした。

 初めて見る顔だが燃えるような赤毛は印象深く、シレアの心を妙にざわつかせた。

「あれはお前の仕業か」

「だったらどうする」

 その言葉にシレアが剣を構えると、女は飛竜の手綱をクイと引き、歯をむき出して威嚇させた。

 飛竜の動きは素早く容易には近づけそうもない。

 剣での攻撃は諦め、口の中で詠唱を始めた。

「チッ」

 女はそれに気付いて飛竜の腹を蹴り、翼をはばたかせて空に浮かんだ。

 飛竜が起こした風がシレアの視界を遮る。

 女は、見上げるシレアをひと睨みして遠ざかっていった。

 それからすぐ、空に指笛のような音が響いたかと思うと、ガーゴイルたちは一斉に飛び去ってしまった。

 ──まるで、何事もなかったように、浮遊大陸は静まりかえるのだった。