港町ワジャジャル──エナスケア大陸との交易を担ううえで、ギュネシアにとって重要な拠点の一つだ。

 船から降りた船客たちは、一つの建物に向かう。

 簡単な木造建築には扉もなく、中もずいぶんと簡素な造りでカウンターが置かれているだけだった。

 ギュネシア大陸に入った記(しるし)を残すための作業なのだが、これらは主に商人向けのものだ。

 放浪者(アウトロー)には足跡を残すというだけでなく、何かあったときのためにという意味もある。

 根無し草の彼らでも、自分の最期がどこに至ったのかを知って欲しいという感情があるのかもしれない。

 もちろん、これは任意のもので全ての人間がやらなければならない事ではない。

 そうしてアレサは、目の前の人物に眉を寄せた。