森での樹上生活ならば、ここまでの警戒は必要ない。

 この地に定着したエルフたちはこの場所に愛着を持ち、ここから離れようとは思わない。

「己を知らないというのは、不安か」

 しばらく夜の声を聞いていた二人だが、アレサがおもむろに問いかけた。

「不安は無い。ただ知りたいだけだ」

 アレサには目を向けず、満天の星空のもと暗闇に視線を送る。

 空に浮かぶ月は細く、草原を柔らかく微かな明かりで照らしていた。

「うん……?」

「どうした」

 怪訝な表情を浮かべ、腰の剣に手を添えたシレアに眉を寄せる。

 エルフよりも劣る人間の知覚で何に気付いたのかと周囲を窺った。

「他の者を起こした方がよさそうだ」

「なに?」

 シレアに目を向けた刹那、彼の背後に黒い影が飛び込んできた。

 シレアは躊躇いもなく抜いた剣で影を薙ぎ払う。