雪解けが始まったばかりの肌寒い朝。


深い森の奥、俗世から完全に切り離された建物から、世にも美しい少女が、豊かな長い黒髪をなびかせ外へと飛び出した。

少女は冷たい空気を思い切り吸い込み、はぁっと白い息を空へ吐き出す。
息は空へ昇りながら、すぅっと消えた。


頬と鼻の頭を赤く染めた彼女は、両手に息を吹きかけ、こすりあわせた。


「セシリアさん」

凛とした女性の声に、はっと振り返る。

「まったく…。
少しは落ち着いた振る舞いをなさい。
また一年生からやり直すつもりですか?」

品の良い少し年配の女性が、戸口に立って呆れたように言った。

「ごめんなさい校長先生」

女性に走り寄ったセシリアの、この国には珍しい薄紫の大きな瞳に悲しげな影が落ちた。
その姿を見て、女性はくすりと笑う。

「分かればよろしいのですよ」

セシリアの曇った顔が、ぱっと輝いた。