二人に手を振り少し歩いたその時、修司の手が私の手に伸びてきた。

強くにぎられる前に素早く手を引く。

先ほど用事があるとウソをついたのを活用して、適当な理由を作り遠回りをして帰宅した。

私達の通っている高校は電車で三駅、そこに徒歩二十分が加わり、片道約三十分ほどだ。

修司と別れた後、電車が一緒にならないよう三駅分を全て歩いた。

それだけで一時間半が過ぎた。

歩き疲れたので最寄り駅の近くにある公園で一休み。

ベンチに座ると、今朝蹴られた太ももが持続的にジン、ジンと痛みだした。

カバンからアメ玉を取り出し、口へ入れる。

くう、美味しい。

公園から十分ほど歩けば家に到着だ。

家、か。

私の家族は仕事でほぼ家に帰ってこない父と修司の三人家族だ。

母はいない。小学生の頃、メモ用紙に殴り書きの手紙を一枚残し突然行方不明となった。

今はどこにいるのかさえ知らない。

相談したい時に両親はいない日々の中、私のそばにいてくれたのは修司だった。

母がいなくなってからというもの、二人で不味いご飯を作り、手探り状態で家事をこなし、父親に渡された財布を持ち買い物へ行って。

修司がいたから何とかやってこれた。

よく兄弟ゲンカなんて言葉を聞くが、私達はケンカなど一度もした事がない。

正確に言うと、私は何度も怒り口調で修司に八つ当たりしたことがある。

しかし、修司は何も言い返してこないのだ。

そのたびに、とても出来た人だと思い知らされる。双子とは思えないほどに頭もいい。

高校を選択する時も、本当は学区内で一番偏差値の高い学校へ行ける成績を取っていたのに、偏差値の低い私と同じ学校を受験した。

「桃美と一緒が一番楽しいからね」最高の笑顔で言われた時、嬉しくて泣いた。

心優しく、笑顔が暖かく、困っている時は助けてくれる修司。

最近、そんな修司を警戒してしまう私はひどい妹なのだろうか。

空を見上げると、茜色の夕空が広がっていた。

雲が薄く延びている。

――もう少し、ここにいよう。

冷たい春風が痛む頬をすり抜けて行った。