彼はとても綺麗に私の髪を染め上げてくれた。
いいって言うのにスタイリングまでしてくれて…

リビングのカラーボックスに置かれた鏡の前、そこに映る自分と彼を見ながら改めて思った。


10歳違うって、こう言う事なんだ…



見てるうちに目のやり場に困って、近くにあった香水を手にしていた。
シルバー色の四角いラベルに記された文字を見ながら、少しだけ嗅いでみると春の匂いがする。
彼に良く似合う、優しくて甘酸っぱい香り。




「何してんの?」


「あ…えっと…」



いきなり声を掛けられて言葉に詰まる。



「気になるなら、着けてみれば?男女兼用っぽいし」


「いいよ…別に、見てただけだし…」




そんな私の言い訳も余所に、彼は自分の指先に少し香水を垂らして髪をかき上げ、耳の裏に滑り落とす。
その感触に息が詰まって、思わず目を閉じた。


その瞬間、何かが重なった。
生温かくて、柔らかい感触…



それは、ほんの一瞬だけ、触れただけの軽いキス。

何が起きてるのか、何があったのか、どうしたらいいか分からなかった。
ただ、目の前にはいつもの顔があった。

微かに口角を上げ、不敵に笑う彼の顔。


その日、初めて二人は別々に眠った。