黙って車を降り、駐車場のシャッターを下ろした途端、美穂の激しい喘ぎ声が聞える。

慶介は両手で耳をふさぎ走り出す。
月に数度はある同じ光景なのに、息苦しい程に襲ってくる憎悪に慶介は混乱した。

ここから国道までは歩かなければならない。セダンは明日の朝、鹿内が乗って帰るのに必要だから慶介は片道だけの運転手だ。

国道まで出ればタクシーがある。

今は一刻も早く家に帰りたかった。

帰ってベッドに潜り込み朝まで熟睡すれば明日には憎悪も消え、何時もの卑屈な笑顔で鹿内に接する事が出来る。

しかしタクシーを拾うまでもなく慶介は熟睡する事が出来た。