西村と呼ばれた男は亜衣を見て少し肩をすくめて見せた。
手に持った紙コップを亜衣に手渡す。

褐色の液体から発せられる強い芳香が亜衣を現実世界に引き戻した。

西村の背後では同じ作業服を着た男達が何人も忙しそうに歩き回っている。

その足元には膨らみを帯びた銀色の寝袋のような物が5個並べられていた。

「まあ……ゆっくり思い出せばいいさ。ゆっくりね」

いかにも偽善者ぶった作り笑顔で西村は亜衣にかけられた毛布の乱れを直した。

「みんなが同じように幸せにはなれないんです」

「はっ?どうしたんだい急に?」