やっと自分の存在に気付いてくれた店員に薔薇の花束を1万円分注文する。となりの女性客が5千円分の薔薇を買ったのを見て、もう少し豪華にしようと思ったからだ。

高価な薔薇も1万円分になるとボリュームがあって、一面花畑の部分から一部分を切り取ったような気がした。



他の女性客が羨ましそうに仲埜を見る。少々気恥ずかしかったが葛西はそれを胸に抱えタクシーに戻った。

「お客さん、いい匂いですねえ。贈り物ですか?」

「まあ、そんな所です」

自分のような中年男がプレゼントに薔薇の花束を買うなんて運転手は何て思っているだろうと思案しながら仲埜は適当に返事をした。