「エレナ」
立ち上がっても抱きついたまま離れないエレナの名を呼ぶ。
ピクッと反応するが、首を横に振って離れない。
まるで何かに怯えているように…
「怒っているわけじゃない。顔を上げろ。」
すると、首に回っていた手がゆっくりとはずされ、俺の肩に手を置き距離を取ったエレナの顔が視界に入る。
瞬間、その美しさに息を飲んだ――――
長い睫毛は涙で濡れ、伏し目がちに俺を見る銀色の瞳。
溢れる涙を抑えるように結ばれる唇。
月明かりを受けて涙の伝う頬。
全てが愛おしいと思うのはエレナだけだ。
俺も腑抜けたものだ…と心の中で笑いながら、エレナの頬に残る涙の後を拭う。
そして、ストンと地面にエレナを降ろし、落ち着いた声で問いかける。
「俺の言うことが信じられなかったのか?」
その問いに弱々しく首を振るエレナ。
「私がいけなかったの…不安に負けたから……ごめんなさい…」
“ごめんなさい”と繰り返すエレナは、きっと俺が傷ついたと思っているのだろう。
これであのくだらん芝居も実を結んだわけか。

