白銀の女神 紅の王Ⅱ




「エレナ」


立ち上がっても抱きついたまま離れないエレナの名を呼ぶ。

ピクッと反応するが、首を横に振って離れない。

まるで何かに怯えているように…





「怒っているわけじゃない。顔を上げろ。」


すると、首に回っていた手がゆっくりとはずされ、俺の肩に手を置き距離を取ったエレナの顔が視界に入る。





瞬間、その美しさに息を飲んだ――――


長い睫毛は涙で濡れ、伏し目がちに俺を見る銀色の瞳。

溢れる涙を抑えるように結ばれる唇。

月明かりを受けて涙の伝う頬。




全てが愛おしいと思うのはエレナだけだ。

俺も腑抜けたものだ…と心の中で笑いながら、エレナの頬に残る涙の後を拭う。

そして、ストンと地面にエレナを降ろし、落ち着いた声で問いかける。





「俺の言うことが信じられなかったのか?」


その問いに弱々しく首を振るエレナ。




「私がいけなかったの…不安に負けたから……ごめんなさい…」


“ごめんなさい”と繰り返すエレナは、きっと俺が傷ついたと思っているのだろう。

これであのくだらん芝居も実を結んだわけか。