白銀の女神 紅の王Ⅱ




エレナを襲っているようにでも見えたのだろうか。

……いや、そう思われても仕方がないな。

そう思いながら、腕に噛みついている子犬を見ていると…



「ニコ駄目…シルバは私達を助けてくれた人よ。」


エレナが子犬の頭を優しく撫でながらそう言う。

すると、子犬はゆっくりと俺の腕から口を放した。

しかし、グルル…と低い声を上げながら俺を睨む。

子犬の癖に主人を守る意思だけは一人前だ。

まぁこれくらい威勢がいい方が良い。



「腕は大丈夫ですか?」


あわあわと取り乱しながら聞くエレナ。




「あぁ。」


多少血は出ていたが、所詮子犬の甘噛み。

痛くもかゆくもなかった。



しかし……コイツに噛まれていて良かった。

あのままでは、自分を抑える事が出来なかった。

嫌がるエレナを顧みず欲望のままに奪っていたかもしれない。

そうなれば、エレナから更に怯えられる事になっていただろう。

そんな俺の心情など知る由もなく…





「血が出ているわ。早く手当しな…きゃ………」


俺の腕から流れる血を見て声を上げるエレナだが、顔を上げた時の距離が思った以上に近く、言葉が途切れる。