エレナを襲っているようにでも見えたのだろうか。
……いや、そう思われても仕方がないな。
そう思いながら、腕に噛みついている子犬を見ていると…
「ニコ駄目…シルバは私達を助けてくれた人よ。」
エレナが子犬の頭を優しく撫でながらそう言う。
すると、子犬はゆっくりと俺の腕から口を放した。
しかし、グルル…と低い声を上げながら俺を睨む。
子犬の癖に主人を守る意思だけは一人前だ。
まぁこれくらい威勢がいい方が良い。
「腕は大丈夫ですか?」
あわあわと取り乱しながら聞くエレナ。
「あぁ。」
多少血は出ていたが、所詮子犬の甘噛み。
痛くもかゆくもなかった。
しかし……コイツに噛まれていて良かった。
あのままでは、自分を抑える事が出来なかった。
嫌がるエレナを顧みず欲望のままに奪っていたかもしれない。
そうなれば、エレナから更に怯えられる事になっていただろう。
そんな俺の心情など知る由もなく…
「血が出ているわ。早く手当しな…きゃ………」
俺の腕から流れる血を見て声を上げるエレナだが、顔を上げた時の距離が思った以上に近く、言葉が途切れる。

