しかし、そんなことで口論をしている暇などなく。
冷えた身体を一刻も早く温める必要があった。
だから、引いたというのに…
テントに入り、エレナを視界に入れた瞬間、大きな溜息が零れる。
エレナは地面に座り込み、濡れた子犬を拭いているところだった。
ずぶ濡れだった服を着替え、厚手のタオルを羽織っているまでは良いのだが…
「………エレナ。」
「どうしたの?シルバ。」
頭を抱えながら呼べば、キョトンとした顔でこちらを向く。
「何故髪を乾かしていない。」
「後で乾かそうと思って。」
銀色の髪は湖から上がった時に比べればいくらか渇いていたものの、まだしっとりと濡れていた。
「風邪引くぞ。」
「けど、服を着替えたから暖かいし。この子の方が寒そうだったから。」
自分の事よりも、犬の事か。
エレナらしいと言えばエレナらしいが…
クシャ……――――
エレナの肩にかけていたタオルで、濡れた髪を拭き始める。
「シルバ?」
無言で髪を拭く俺に、エレナが声を上げる。
「じっとしていろ。」
そう言うと、顔を赤らめ「はい」と嬉しそうな声が返って来た。

