白銀の女神 紅の王Ⅱ




「そもそもお前は泳げないだろ。泳げもしない癖にむやみに水に入るな!」


その一言で、エレナの銀色の瞳がじわじわと潤む。

涙を溜めたその瞳は、まるで輝くダイヤの様。




「ごめんなさい……」


力なく呟きながら、必死で涙を耐えるエレナ。

口元をキュッと結び、瞬きもせずに今にも涙が零れ落ちそうな瞳でこちらを見上げる。

途端、苛立ちがフッと消えた。



怒っているわけではない……


身を案じての言葉だった。

そう言ったって、信じてもらえないだろう。





ッ…クソッ………


言葉にできないもどかしさに内心悪態をつく。

そして、言葉にできない代わりに身体が動く。



グイッ―――――


エレナの腕を取り、引き寄せる。

逆らうことなく倒れ込んできた身体を力の限り抱きしめれば、先程の不安が少し消えた。



「無事で良かった。」


耳元でそう言うと、腕の中のエレナがハッと息を飲んで俺の顔を見上げ…

瞳いっぱいに溜まっていた涙が堰を切ったように零れ落ちた。




「お前は本当に目が離せない奴だ。」


次々零れ落ちる涙を拭えども、エレナの涙は益々酷くなるばかり。

けれど、涙を流しながらも抱きついて来たエレナ。

確かに腕の中にある存在に、やっと自分の心も穏やかになった瞬間だった。