白銀の女神 紅の王Ⅱ




自分の身よりも子犬の事を気にかけるエレナに苛立ちつつも、今は湖から出る事が先決。




「コイツを持っていろ。」


その苛立ちを抑えるような低い声が出る。

エレナは差し出された犬を両手でしっかりと持ち、抱きかかえた。




バシャッ…バシャッ…――――

足がつく岸辺に近づけば…





「シルバ!」


岸で待つウィルがこちらに向かって叫ぶ。





しかし、それに応える余裕はない。

ストン…とエレナを下ろせば、ほっとした様な顔つきになり、子犬を地面に下ろした。

そして、こちらを見上げ…



「シルバ…あり「馬鹿かお前はッ!」


エレナが良い終わらぬうちに、溜まっていたものが爆発する。

途端ビクッと肩を揺らし、固まるエレナ。

何事かと湖に集まって来た兵士たちも静まり返る。




「俺が待てと言っただろ。」


こんな事が言いたいわけじゃない。




「まだ足がつくと思って……」


ただただ圧倒されて怯えながら口を開くエレナ。

震えているのは寒さからか、恐怖からか。

エレナが震えているのが分かってはいたが…止まらない。




「湖だからと言って油断しているからだ。」


苛立ちのままにエレナに向かってそう言う。