自分の身よりも子犬の事を気にかけるエレナに苛立ちつつも、今は湖から出る事が先決。
「コイツを持っていろ。」
その苛立ちを抑えるような低い声が出る。
エレナは差し出された犬を両手でしっかりと持ち、抱きかかえた。
バシャッ…バシャッ…――――
足がつく岸辺に近づけば…
「シルバ!」
岸で待つウィルがこちらに向かって叫ぶ。
しかし、それに応える余裕はない。
ストン…とエレナを下ろせば、ほっとした様な顔つきになり、子犬を地面に下ろした。
そして、こちらを見上げ…
「シルバ…あり「馬鹿かお前はッ!」
エレナが良い終わらぬうちに、溜まっていたものが爆発する。
途端ビクッと肩を揺らし、固まるエレナ。
何事かと湖に集まって来た兵士たちも静まり返る。
「俺が待てと言っただろ。」
こんな事が言いたいわけじゃない。
「まだ足がつくと思って……」
ただただ圧倒されて怯えながら口を開くエレナ。
震えているのは寒さからか、恐怖からか。
エレナが震えているのが分かってはいたが…止まらない。
「湖だからと言って油断しているからだ。」
苛立ちのままにエレナに向かってそう言う。

