「あの時の傷は?痕は残らなかった?」
抱きしめていた腕を離し、ニーナの瞳を覗きこむ。
石畳に打ち付けた額の傷を確かめるために髪を掻き分ければ、傷はもうなかった。
「痕は残っていないみたいね。良かった」
心から安堵し、ニーナに微笑みかければ、ニーナの瞳がじわじわと涙の膜を張る。
何とか涙を零すのを耐えているようだったが…
「ニーナ?」
「ふぇっ…エレナさまぁぁ……ひっく…」
呼びかけた途端、張りつめていた緊張が弾ける様に声を上げて泣き、小さな体が抱き着いてきた。
私よりも頭一つ小さいニーナを抱きしめ、柔らかい髪を撫でる。
「怖かったね。ごめんね、ニーナまで巻き込んでしまって」
そう言うと、ニーナは私の胸に顔を埋めたまま首を横に振る。
そして真っ赤に充血した目で私を見つめて、涙声で話し始めた。
「謝るのは私の方です…ひっく…私だけギルティスから連れ出されて…残されたエレナ様がどんなに怖い想いをされたかと考えたら……ごめんなさい…侍女失格です」
溢れる涙を手の甲で拭いながらそう言ったニーナに私は目を瞬かせた後微笑みかけた。

