白銀の女神 紅の王Ⅱ




確かにエレナにとっては見られたくないものかもしれない。

怖い想いをして組み敷かれ、おそらくぎりぎりのところまで迫られていたのだろう。

そうでなければ服で隠れるはずの胸元につかないはずだ。

乱れた服と髪といい、どれほど必死で抵抗したかが窺えた。




そして…――――

先ほど口づけをしたときの違和感。

エレナの舌を絡めとる様な深い口づけをしたとき、僅かだが鉄の味がした。


あれは紛れもなく血の味。

エレナは自決しようとしたのだ。

乱暴に扱われて口の中を切っただけなのかもしれないとも思ったが、直感がそう思わせた。



あんなにも自分を穢れていると言って涙を流すほど純粋なエレナの事。

託したはずの手紙を受け取れず、俺がエレナの事を見捨てたと思っていたならそう言う行動に及んだことは十分考えられる。



その考えがよぎった時は一瞬ゾッとし、心臓が凍りつくような感覚が襲った。

エレナが自らの命を絶っていたかもしれないと思うだけでどうしようもない後悔が込み上げる。

同時にこうして戻ってきてくれたことにこの上なく安堵した。



胸元の痕が気にならないと言ったら嘘になるが、それでもこうしてエレナが無事であることが何より俺を安堵させるのだ。

エレナを永遠に失っていたかもしれないと言う喪失感と絶望を感じてしまった後だからこそ、今離れろと言う願いは聞いてやれない。




一時でさえも離すつもりはなかった。